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来年度予算政府案で学校はどうなる?

改悪教育基本法実働化への予算案

―主幹教諭千人配置、文科省お手盛り構造はそのままに
不安定雇用と管理強化は進行する―

全学労連事務局 学校行革対策部 佐野 均

☆ 頓挫した?文科省の野望

 昨年末来年度予算政府案が閣議決定され、今月17日に国会へ提出された。今審議の最中であるが、参議院の与野党逆転状況の中で例年以上に攻防の焦点となるのは必至で、内容の修正や場合によっては解散・総選挙にまで至る可能性もある。その予算案にしても、今話題になっている年金財源や道路特定財源の問題だけでなく多くの波乱材料を含んでいる。文教予算ついて言えば、文科省の教職員定数要求と閣議決定されている歳出削減計画との兼ね合いで官僚レベルでは調整できず、大蔵原案直前に財務・文科両大臣の政治決着がされている。

 前安倍内閣の下で、数を頼みに教育基本法改悪の強行から関連3法まで成立したし、政権の目玉の一つである教育再生会議も発足当初は混乱したが、何とか文部官僚の手の平でコントロールできるようになった。これにより「大いなる野望」を抱いた文科省は、ここ数年義務教育費国庫負担制度や定数計画など、削減の矢面に立たされてきたことの巻き返しを図る絶好の機会とばかり、行革推進法の定数削減方針に反して、8月の概算要求において3年間で約2万1千名の定数増を打ち出した。ところが参院選での自民党惨敗と、それでも辞任しなかった頼みの安倍総理の突然の政権投げ出しで雲行きが怪しくなってきた。定数問題の取り扱いで文教予算編成は暗礁に乗り上げ、最後は大臣間の政治決着とならざるを得なかった。

 結果として、教員千人の純増と非常勤講師7千人で決着したと新聞各紙は報じているが、これについてはもう少し詳しく見る必要がある。

☆ 政治決着のカラクリ

概算要求と文教予算の対比

文部科学省概算要求と当初予算の対比。事務職員の共同実施加配は認められなかったが…。画像をクリックするとPDFファイル(96kb)が開きます。

 右の図に示したことから明らかなことは、予算化がされた「教員千人の純増」とは、主幹教諭の配置であるということだ。「教員の子供と向き合う時間の拡充」を言うなら、少しでも一般の教員を増やしたほうが良いだろうに、文科省が教育基本法改悪後の学校管理体制強化を優先している事は明らかだろう。しかもこの千人というのも、行革推進法は定数標準法で定められた職員以外の給食調理員や用務員などの削減も求めており、実はそうした職員の削減分を充てる“工夫"により「純増」と言っているに過ぎない。

 また、文科省の概算要求の教職員定数に関する部分は数的にはかなり削減されたが、項目的には「外部人材の活用」を利用しながらほとんどが実現している。たとえば、概算要求では「定数の改善」の項目に入っていた「特別支援学校のセンター的機能の充実」と「習熟度別・少人数指導の充実」は政府案では「外部人材の活用」の項目へ概算要求の内容に上乗せする形で移行している。これも「外部人材の活用」は行革推進法の規制外であるための“工夫"なのだ。しかしこれらの“工夫"の結果として、学校現場はさらに外部委託化が進行し、不安定雇用労働者が増えることになる。

 そうした中で学校事務職員の加配は完全に削減されている。このことは何を意味するのか。昨年文科省に返り咲きを果たした勝山教育財政室長は概算要求について、養護教諭や栄養教諭よりも「事務職員の改善数が圧倒的に上回る」とエラそうに豪語していたが、結果はこのとおりである。もっとも「改善」の内容というのは「教員の事務負担の軽減」のために「複数校の事務を共同実施する体制の整備促進」をする加配である。これは全学労連的に言うと、学校事務職員を教員の下請け化し職の合理化を推進する事にほかならない。

 文科省は今年の概算要求から学校事務職員の加配を全て共同実施のためのものに切り替えてきた。昨年10月の全学労連との交渉でも、「定数改善」は学校事務職員のためにやっているのではないと言い切り、共同実施以外の加配は認めないと断言している。当然のことながら、こんな概算要求なら実現しないほうが良かったということで、実際予算案ではそうなった。ではそれで良かったのかというと、もう少し事態は複雑だ。

☆ なし崩しの「共同実施」

 学校事務職員の加配は、2000年度から研究加配が、2001年度から2005年度まで第7次定数計画による加配が行われ、その後も含め今年度までに合計で540名が加配されている(これまで何度も言っているが、この数は未だに第7次定数計画の726名にも達していない)。今回の政府の予算案では「教員の事務負担の軽減」のために「複数校の事務を共同実施する体制の整備促進」をする加配計画を概算要求から削減したのであって、今まで第7次定数計画等で積み上げてきた加配分は来年度も残る。その理由付けは「きめ細かな学習指導や教育の情報化の支援等のため事務部門の強化対応を行う学校への加配」である。この中にはもちろん「共同実施」もあるが、それだけではなく学習指導や情報化の支援等のより広い内容を含んでいた。実際にはさらに広く解釈され、複数配置校維持のための配置がされることもあった。このような理由も含めて国会の議決を経て予算化され執行されてきていた。

 ところが文科省は来年度の事務職員加配の理由付けを「共同実施する体制の整備促進」に限定して各県の要望を募ってきている。この理由付けの加配が政府予算案で否定されたにも拘らず、である。たとえば愛知県はこれまで「共同実施」のための加配は要望もしておらず、今年度は「情報化支援」を理由とした22名の事務職員加配を受けているが、突然今後は「共同実施」のための加配として優先的に活用する(1組織10校程度で県内に35の組織設置)と言い出し県下の市町村教委に意向聴取を行っている。加配を受けていた現場は今までの取り組みを投げ出し「共同実施」を始めるか、加配をあきらめるかの選択を迫られることになる。これでは現場はたまったものではない。繰り返すが加配理由を「共同実施」に限定することはどこの承認も受けておらず、文科省がなし崩し的にやろうとしているだけなのだ。これは予算の不当な“流用"ではないのか。

☆ 結局教育再生会議って…?

 来年度予算案が閣議決定された翌日の12月25日に教育再生会議の第三次報告が出されている。パトロンであった安倍首相が辞任してもまだやっていたのかという事はひとまず置くとして、来年度予算案に関して1点だけ指摘しておく。

 今回の報告で始めて「学校支援地域本部」の設置が提言されている。その内容については報告の14ページに「国、教育委員会は、PTA、卒業生、地域ボランティアの人々などが補充学習、部活動、施設管理など学校運営を支援する『学校支援地域本部』が全国の学校で整えられるよう支援する。その際には、地域の企業の協力も積極的に求める。」とある。ちなみに昨年6月の第二次報告まではこれについては一言も触れられていなかった。でもこれだけならまあそういう提言を出したのかと思うだけで済む。

 しかしその前日に出された「平成20年度文教及び科学技術予算のポイント」の2ページに、「@学校支援地域本部の創設 50億円〈新規〉」とあり、内容は「意欲ある地域住民が知識・技能・経験を活用し、地域ぐるみで学校運営を支援する体制を全国1,800地域に整備」とある。渡海文科大臣も政府案発表後の記者会見で、的外れながらこの役割を強調していた。さらに「概算要求主要事項」の説明資料では「学校支援地域本部(仮称)事業の実施20,474,082千円(新規)」とあり、金額が減らされているとはいえ、これが文科省の概算要求段階からの規定の政策であったことが判る。

 いったい提言が出されるよりも早く、予算要求がなされ査定を経て予算案が作られてしまうということはどういう事なのか。別に期待をしていた訳ではないが、これでは教育再生会議は当初の勢いは何処へやら、文科省の意を受けて後付けでもっともらしく提言らしきものを出しているに過ぎないではないか。まもなく最終報告が出るらしいが、パトロン不在のサロンは、文科省に利用しつくされた挙句残務整理をするだけて終わるしかないのだろう。


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