2002年7月29日
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全学労連ニュース今号の内容

 「制度化された自由としての分権」を撃て!―文科省交渉報告

 風雲急を告げる国庫問題 文科・財務・総務、三省の争いと我々の闘い

「制度化された自由としての分権」を撃て!

―文科省交渉報告に代えて―

全学労連事務局 羽成 純

 全学労連は7月5日、文科省と交渉をもった。要望書提出(5/10)後、2ヶ月足らずの間に義務教育費国庫負担制度等を巡る状況はさらに一歩動いた。すなわち、「税源移譲」(注1)を伴った「地方分権改革」(注2)の方向がより鮮明に打ち出された。「小泉構造改革」の現段階は「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」(’02.6.25)とこれに先立つ「福祉・教育・社会資本などを含めた国庫補助負担事業の廃止・縮減について…年内(2ヶ月前倒し)を目途に結論を出したい」という首相指示端的に示されている。

 義教制度そのものが、いよいよ大きく転換していく状況に入ったことは確かなようだ。因みに今回の交渉で文科省担当者は「制度の根幹を揺るがすような議論が出てきている。」と発言している。文科省が「全国どこでも一定水準の教育を無償で受けられるようにするために国庫負担制度は不可欠」と総務相に反論(5/25)していることは、かつて臨教審の論議の中で、文科省が日教組とともに「自由化論」派に対して「公教育擁護」派として振る舞ったことを想起させる。しかし、今、文科省が政令市への国庫負担金の移管を主張しつつ「国庫負担制度の根幹は維持する」(注3)といい、日教組が「(義務教育について一定の教育水準の確保が全国的に保障されることを前提にして)義務教育費国庫負担制度の在り方について議論を高めることは必要」(6/25日教組書記長)と発言するのをみる時、臨教審が、曲がりなりにも私たちにとって改めて問うひとつのきっかけとなった時代とは、遠く隔たってしまったことを感じさせる。20年近くが経過する中で、自由は、「制度化された自由(としての分権)」という幻想(権力の思想)(注4)に呑みこまれつつあると言うべきか。国立大学の独立行政法人化(’04年)をきっかけとした公教育制度再編の動きの中で成績主義(能力給)、その裏付けといえる分限処分体制(’01年地教行法改定)と一体的に推進されようとしている教員給与体系の見直しが義教制度そのものを直撃することはあまりにも明らかだ。

 このような状況において私たちはどのように運動を構想していくのかを問われていると言わねばならない。「子どもにとっては生きていく場所であり、私たちにとってはそこで働く現場である学校が息苦しく閉ざされた空間に変えられようとし」ていることに怒りをもって抗していくこと(要求書前文)、そのことを再確認しよう。

 義教制度の転換が戦争国家体制作りと不可欠であると言うことをしっかり見据えながら、同時に教育の名の下に差別され学校から排除されていく子どもたち(注5)、労働者の存在に思いを寄せつつ、今私たちのいる場所を、それと連なる世界とのつながりを意識しつつ、例えば休憩室を作らせていくという取り組みも行いながら(文科省が’01/3の施設整備指針の中で休憩室に触れていることは大いに利用すべきだろう)、生きやすい(働きやすい)場所に変えていこう。そのことが事務・栄養職員の切り捨てによって開始されようとしている義教制度の転換に反対していく根拠なのだと思う。

注1 経済財政諮問会議(5/21)において総務相は「地方財政の構造改革と税源移譲について(試案)を提出し」「義教金に手をつけないわけにはいかない」と発言した。

注2 地方分権改革推進会議は「事務・事業のあり方に関する中間報告」(6/17)において国の地方に対する補助金を減らし、地方の行政権限を拡大する方向を打ち出し、義教制度や教員給与体系の見直しを提言した。

注3 前掲中間報告は義教制度に関して負担金の一般財源化を将来的な課題とする一方で、学校栄養職員、学校事務職員に関する国の関与の見直しを「直ちに検討、措置すべき(or今後の)課題」に位置付けている。義教制度に関して、文科省のいう「根幹」は、財務省が言い続けてきた「教壇に立つ職員」に関わることと限りなく近づいたと見なければなるまい。

注4 国が進める市町村合併策に反発し、昨年10月、「合併しない宣言」を採択した福島県矢祭町は、8月5日から運用が始まる予定の「住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)」を巡り、「個人情報保護法案が成立しておらず、町民の情報が守れない」として住基ネットに参加しないと福島県に通告した。これに対して総務省は・・全国・・一律の対応を求めて、地方自治法違反を理由とした是正を指示していくという(7/23「朝日」)。「日の丸・君が代」を・・全国・・一律に強制し、「心のノート」を全ての小・中学校に送りつけ、「障害」児排除の・・全国・・一律の基準を振りかざす文科省と、寸分違わぬ醜悪な総務省の姿がそこにはある。権力の語る分権が結局新たな「集権―分権」構造の再編でしかないことは明らかだ。

(注5)「心のノート」に触れて北村小夜さんは「障害児は体験学習の対象としか出てきませんし、友達の中に外国人も見あたりません」と指摘している。(「日の丸・君が代」No!通信'02/6)

風雲急を告げる国庫問題

文科・財務・総務、三省の争いと我々の闘い

全学労連学校行革対策部 佐野 均

☆来年度から国庫がはずれる?

 6月17日に地方分権改革推進会議は「事務・事業のあり方に関する中間報告」を発表した。それによると、社会保障、教育・文化、公共事業、産業振興、治安などの分野において国の地方に対する補助金を減らし、地方の行政権限を拡大することを目指しているようだ。教育においては義務教育費国庫負担制度や教員給与体系の見直しを提言している。そして義務教育費国庫負担金の一般財源化を「将来的な課題」とする一方で学校栄養職員、学校事務職員に関する国の関与の見直しを「直ちに検討・措置すべき課題、今後の課題」と位置付けている。要するに、とりあえず従来から話題となっていた事務・栄養職員に手をつけるのが、国庫負担金見直しの実績を上げるには手っ取り早いと値踏みされた訳だ。

 これに先立つ6月7日経済財政諮問会議で小泉総理は、内閣総理大臣指示として

「地方分権改革推進会議の調査審議も踏まえつつ、福祉、教育、社会資本などを含めた国庫補助負担事業の廃止・縮減について、私が主導し、各大臣に責任を持って検討していただき、年内を目途に結論を出したい。」(下線引用者)

と述べている。ちなみにこの辺りの内容は6月25日に出された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」(いわゆる「骨太の方針第2弾」)にそっくり引き継がれている。さらに同日小泉総理は、この方針の2ヶ月前倒しを指示し「10月を目途」としている。

 以上から、来年度予算から事務・栄養の国庫負担はずしという、我々にとって最悪のシナリオが見えてくる。これにどう対処し阻止するかが緊急の課題であるが、それを模索するため国庫負担金を巡る各省の対応を見ておく。

☆総務省vs.財務省の争い

 片山総務大臣は5月21日の経済財政諮問会議において、「地方財政の構造改革と税源移譲について(試案)」を提出し、地方歳出に対する国の関与の廃止・縮減等のため、第一段階として、所得税から住民税へ3兆円、消費税から地方消費税へ2.5兆円、合計5.5兆円程度を地方へ税源移譲し、「国税:地方税=1:1」を実現する。これにより奨励的補助金(2.3兆円)と経常的経費にかかる国庫負担金(3.2兆円)を合わせて5.5兆円程度の国庫支出金の縮減が可能としている。続けて、併せて地方交付税の算定方法の見直しや「税源移譲に際し、地方交付税原資は確保」と述べた上で、第二段階として「地方財政収支の改善を踏まえ地方交付税を地方税へ振替え」(下線引用者)と言う。

 総務省の試案は、地方分権推進のため税源移譲により地方の税源を確保するという大義名分の衣をまといつつ、地方交付税の所管官庁としての権限強化を図ろうという下心が見える。要するに、いつになるか判らない地方財源不足の解消までは、第一段階が継続し、総務省が地方交付税の配分を仕切り続けられるということだ。さらに5月24日に総務大臣は、税源移譲のためには最大の国庫負担金である義務教育費国庫負担金(約3兆円)に手をつけないわけに行かない旨発言している。

 これに対して当然ながら財務省は反発する。同じ会議で塩川財務大臣は、「地方の自立のための改革の基本的視点」という資料を提出している。その中で、税源配分の見直しは、「国と地方の役割の見直しと合わせた地方歳出の徹底した見直し等を前提に、地方交付税制度の抜本的な改革と同時進行で総合的に進めることが必要。」(下線引用者)と述べ、さらに「税源移譲を行なっても、税収増は経済活動の集積した都市部の自治体に集中し、地域間の財政力格差はむしろ広がるなど、地方の自立には程遠い状況」等の問題点をあげ、「国の減税につながる税源移譲は・・・実施は困難。」として片山総務大臣の試案を牽制している。さらに同席していた石税制調査会会長も、

「政府税調は一貫して、地方交付税こそ国と地方のつなぎ目として問題は多いと見ている。税源移譲を二段階で実施する際の第一段階が国庫支出金で、格差が開くので第二段階が交付税になっている。しかし、税源移譲に踏み切った以上、ある程度格差が開くのは仕方がないし、割り切るしかない。東京や大阪など大都市は別にやるとしても、地方交付税を最初に担保を出さないと。この議論は空中分解する。国庫支出金などは総務省以外の省庁であり、総務省が自ら汗をかかないと総スカンを食う。」

と発言して塩川財務大臣に同調している。

☆“方針”だけが先走る小泉改革

 この議論は、議長である小泉総理の「方針は決まっている。問題は、これから総務省がやるべきだ。5年とか10年とか、そんなに長いスパンじゃない。1〜2年か、2〜3年で地方交付税を見直す。財源を地方に移す。」というなんとも強引なまとめで、各省庁で調整するということになった。はじめに方針だけがあるというのはいかにも小泉らしいが、具体化については各省庁に丸投げされ、対立構造はそのまま残った。そしてここでのやり取りは、先に紹介した「骨太の方針第2弾」で

「・・・国庫補助負担金、交付税、税源移譲を含む税源配分のあり方を三位一体で検討し、それらの望ましい姿とそこに至る具体的な改革工程を含む改革案を今後一年以内を目途にとりまとめる。」

とされている。総務省も財務省も「地方分権改革」や「国庫補助負担事業の廃止・縮減」といった錦の御旗には逆らえないが、それを巡る具体的な方策では自らの省益をかけ、熾烈な駆け引きを展開している。

☆文部科学省の反撃は・・・

 一方遠山文科大臣は5月28日に、義務教育費国庫負担金削減を主張した片山総務大臣に関して、

「全国どこでも一定水準の教育を無償で受けられるようにするために、国庫負担制度は不可欠。地方の財源論から基本を揺るがすようなことをすれば、日本の骨格が揺らぐ。」

と述べ、強く反発している。文科省の省益からすればこれも当然であろうが、錦の御旗を引っさげての論理に対抗するには、いかにも弱々しく思える。まして教育改革や定数計画などの一連の施策で、学校の多忙化と職員配置の不安定さを招き、国庫負担制度の骨格を揺るがしてきたのは、他ならぬ文科省自身である。文科省が何を差し出せるかといえば、苦し紛れに事務・栄養の国庫負担分を“生贄の羊”として差し出す可能性はかなり高まっていると考えざるを得ないだろう。

☆全国各地から反撃しよう

 我々としては黙って生贄になる義理は無いわけで、何とかこれを阻止しなければならない。これまで見てきたように、小泉総理が景気よく方針をぶち上げる影で、国庫補助負担金・交付税・税源移譲のあり方を巡って三省の利害が対立し、責任を押し付けられて戸惑う大多数の地方と一部の意欲的な自治体が、期待と不安を抱きつつその行方を見守っているという図式が顕著になってきた。

 こうした対立構造の調整がつかないまま空中分解するのを待っているのでは、あまりに他力本願に過ぎる。状況はそれほど甘くない。各地で今の情勢についての交渉・要請行動を行ない、我々の雇用者責任や学校の設置者責任を明確にさせ、国への圧力を強める取り組みが必要である。

 全学労連は7月5日に文科省交渉を行ない、8月末の来年度予算概算要求の時点で事務・栄養の人件費国庫負担分を外すことはしないとの回答を引き出している。しかしこれだけでは文科省の当面の心づもりでしかない。文科省の言い方も、これまでは「国庫負担制度は義務教育の根幹」と言っていたのが、「国庫負担制度の根幹を守る」と変わってきている。同じ「根幹」と言っても全然意味が違っている。根幹以外の部分として“生贄の羊”にされるのはごめんだ。

 今後、7月30〜31日の全国交流集会や国会請願署名活動、文科・財務・総務の三省や地方教育団体への取り組み、年末の全国総決起集会・デモ等、全学労連は全力で闘っていく決意である。全国の仲間の支援と、共に闘うことを訴える。

 

国庫が危ない!?

  〜風雲急を告げる国庫情勢を闘い抜く〜

 新聞報道でも騒がれているように、私たちの給与の国庫負担金は新たな局面を迎えています。

 この危機を乗り越えるために、全学労連は攻撃を押し返す次のような取り組みを計画しています。皆様のご支援・ご協力をお願いします。

1.三省への取り組み
文部科学省・財務省・総務省に対する圧力を強化。
2.地方団体への取り組み
都道府県教委連合会・市町村教委連合会等の地方教育団体の他、全国知事会や市長会等の首長部局への取り組み。
3.地方自治体への取り組み
各地で今の情勢について交渉・要請行動を行い、学校事務職員・栄養職員の雇用者責任や学校の設置者責任を明確にさせ、国への圧力を強めると共に、万が一の場合の雇用条件の切り下げに歯止めを掛ける。
4.全国の仲間への呼びかけ
逐次情報を提供すると共に、組織の強化を図り自力を付ける。
  1. 経済財政諮問会議(5/21)において総務相は「地方財政の構造改革と税源移譲について(試案)を提出し」「義教金に手をつけないわけにはいかない」と発言した。
  2. 地方分権改革推進会議は「事務・事業のあり方に関する中間報告」(6/17)において国の地方に対する補助金を減らし、地方の行政権限を拡大する方向を打ち出し、義教制度や教員給与体系の見直しを提言した。
  3. 前掲中間報告は義教制度に関して負担金の一般財源化を将来的な課題とする一方で、学校栄養職員、学校事務職員に関する国の関与の見直しを「直ちに検討、措置すべき(or今後の)課題」に位置付けている。義教制度に関して、文科省のいう「根幹」は、財務省が言い続けてきた「教壇に立つ職員」に関わることと限りなく近づいたと見なければなるまい。
  4. 国が進める市町村合併策に反発し、昨年10月、「合併しない宣言」を採択した福島県矢祭町は、8月5日から運用が始まる予定の「住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)」を巡り、「個人情報保護法案が成立しておらず、町民の情報が守れない」として住基ネットに参加しないと福島県に通告した。これに対して総務省はの対応を求めて、地方自治法違反を理由とした是正を指示していくという(7/23「朝日」)。「日の丸・君が代」をに強制し、「心のノート」を全ての小・中学校に送りつけ、「障害」児排除のの基準を振りかざす文科省と、寸分違わぬ醜悪な総務省の姿がそこにはある。権力の語る分権が結局新たな「集権―分権」構造の再編でしかないことは明らかだ。
  5. 「心のノート」に触れて北村小夜さんは「障害児は体験学習の対象としか出てきませんし、友達の中に外国人も見あたりません」と指摘している。(「日の丸・君が代」No!通信'02/6)

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