2004年3月6日
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全学労連ニュース今号の内容

 総額裁量制は学校事務職員に何をもたらすか

 国庫問題を考える集会を開催(愛学労)

 共同実施と電子府庁を考えるつどいパート4

総額裁量制は学校事務職員に何をもたらすか

全学労連事務局学校行革対策部 佐野 均

☆総額裁量制の概要

 文部科学省は、来年度予算編成作業での義務教育費国庫負担金の削減問題が一応の決着をしたことを受けて、教育関係団体や都道府県教育委員会に対し昨年8月に打ち出した総額裁量制についての説明を始めている。

 それによると、「義務教育費国庫負担制度の根幹を堅持しつつ、地方の自由度を大幅に拡大するための制度改正を行う」として、「教職員の給与費の2分の1を国が負担するという現行制度の基本的な枠組みを維持」し、「国庫負担金を都道府県ごとの『給与単価』と『定数』をベースとして算定する」という。そして「負担金総額の範囲内で給与額や教職員配置についての都道府県の裁量を大幅に拡大し、各都道府県が地域の実態に合わせて効果的に負担金を活用できるようにする」との事である。

 具体的には、(1)国家公務員の一般行政職俸給表を基礎として、人材確保法による教職員の優遇措置等を勘案して、国庫負担のための給与単価を設定する。(2)都道府県ごとの給与単価に教職員の標準定数を乗じる等、国庫負担の対象となる給与費の総額を算定し、その2分の1を国庫負担額とする。これにより「都道府県の自由度が大幅に拡大」し、「国庫負担金算定に係る事務作業の大幅な簡素化が図られる」という。

☆「地方の自由」の意味

 今年4月からの国立大学の独立行政法人化に伴い、これまで各都道府県がそのままそれぞれの教員に適用していた国の教育職給料表は無くなり、各都道府県が独自で給料表を作らねばならなくなった。そのことに対して、総額裁量制についての文科省の説明は、国の行政職給料表を基礎とする方向を示したものである。もっとも文科省は、あくまでも国庫負担金の算定の仕方を示したに過ぎず、地方は自由にやって良いと言うのだろうが…。

 「都道府県の裁量を大幅に拡大」とか「地域の実態に合わせて…」とか言うとなんとなく良いイメージだが、全学労連が既に指摘しているように、税源移譲も不十分なまま補助負担金と地方交付税が削減された「三位一体改革」により、元々悪化していた地方財政はますます困窮している。また他方で公務員の定数削減や成績主義・賃金削減の圧力もある。

 今年2月9日に全国知事会の梶原会長は「地方交付税等の大幅削減に対する緊急コメント」を発表し、地方公共団体の「未曾有の財政危機」と「財政再建に向け人件費の抑制、事務事業の抜本的な見直しなど、国の取り組みをはるかに上回る徹底した行財政改革に取り組んでいる」ことを訴えるとともに、「国の『三位一体改革』における国庫補助負担金の見直しや税源移譲が不十分な中、地方交付税の削減のみが突出して行われることは、地方公共団体の財政運営に致命的な打撃を与えるものであり、極めて遺憾である」と述べている。これが今の「地域の実態」なのだ。

 それに合わせて「大幅に拡大」された「裁量」を発揮しろと言うのは、がんばって人件費を削減しろというに等しい。何しろ「給与単価」や「標準定数」なんてものは義務教育費国庫負担金を算出するためにある机上の数字であって、現実の教職員の実態がどうかは地方の責任であり、文科省の知ったことでは無くなったのだ。

 このような総額裁量制により、文科省は義務教育費国庫負担制度が無くならない限り、現実の教職員の処遇とは関係ない安定的な国庫負担金総額を確保でき、その配分官庁でいる事になる。

総額裁量制における加配定数の取り扱いについて(イメージ) 文科省資料より

☆元はと言えば・・・

 中央教育審議会が1998年9月21日に出した答申「今後の地方教育行政の在り方について」は次のように述べている。

 「義務標準法」及び「公立高等学校の設置、適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律(以下「高校標準法」という。)」に定める教職員定数の標準は、国がその給与費を国庫負担し、あるいは地方財政措置する際の基礎となる教職員定数を算定するための基準であるという性格をより明確にして、都道府県が弾力的な教職員配置基準等を定めるなどにより、実際の教職員配置がより弾力的に運用できるようにすること。

 ここには既に今日の総額裁量制の考え方が見られる。給与費の国庫負担があるから定数標準が守られるのではなく、定数標準を基準に国庫負担の給与費が算定されるというように関係が逆転された上で、都道府県による弾力的な教職員配置の運用を推進しようとしている。

 文科省は元々中央集権的な官庁であるから、その後の抵抗を見ても判るように、この時点では今日の総額裁量制までは考えていなかっただろうと思われるが、論理的には既に1998年の中教審答申からこの流れは始まっていたわけである。

総額裁量制における算定方法(案) 文科省資料より

○ 給料の算定方法

給料単価 × 定数 × 12月

※ 給料単価は、各学校種、職種ごとに作成

定数は、職種ごとに義務標準法に基づき算定

○ 諸手当の算定方法(イメージ)

それぞれの手当ごとの単価に定数を乗じること等により算定

(1)給料額を基に算定する手当

教職調整額、管理職手当、調整手当、へき地手当、超過勤務手当、特殊勤務手当、管理職員特別勤務手当、宿日直手当、給料の調整額、義務教育等教員特別手当、期末・勤勉手当

[算定方法の例]

○ 教職調整額

  教諭等給与単価 × 4% 対象者に係る定数 ×12月

(2)国の支給基準を使用する手当

扶養手当、住居手当、通勤手当、単身赴任手当、寒冷地手当、特地勤務手当

☆少数職種には厳しい?

 さらにこの答申では次のようにも言っている。

 現在、小・中学校の教職員定数の標準は、各都道府県ごとに総数を定めるとともに、教員、養護教員、学校栄養職員、学校事務職員の各職種ごとに標準定数を定めている。その際の国及び都道府県双方の関連事務の効率化等の観点から、「義務標準法」第6条等について必要な見直しを行うこと。

 文科省の説明している総額裁量制では、国庫負担金算定の基礎となる給与単価も定数も、職種ごとに算定する方法が取られている。しかし、ここで言う職種別定数の見直しの考え方を適用していけば、算定方法が変わることはあり得るし、算定方法が変わらなくても実際の教職員配置の際、都道府県の「裁量」により職種枠を無くすことは可能である。はたしてそこまで文科省に認められるかどうかだが、これまでの流れは「裁量」拡大の方向であるし、既に中教審答申により考え方は提示されていることを考えると、文科省が歯止めをかけることは期待しないほうが良さそうである。

 職種枠が無くなるということは少数職種分が多数職種にまわされることを可能にする。「学力低下」批判にさらされている教育関係当局は少人数学級・少人数指導のための費用捻出に頭を痛めている。学校事務は、行政との一体化・電子自治体化・共同実施で削減可能という流れが作られつつある。総額裁量制は学校事務職員の未来に暗い影を投げている。

 

学校事務はどこへ行く...

国庫問題を考える集会を開催しました

愛知県学校事務労働組合

 愛学労は1月12日、愛知県勤労会館において「愛学労国庫問題を考える集会、学校事務はどこへ行く...」を開催した。レポーターとして全学労連学校行革対策部から佐野さんを招き、04年度予算を巡る国庫負担はずし攻撃の情勢分析と取り組みに対する総括、今後の運動について議論を交わした。

 佐野さんからは、小泉内閣による「三位一体改革」の柱である国庫補助負担金の縮減・廃止の動きの中で、義務教育費国庫負担金、とりわけ学校事務職員給与費が危機的状況であったことをはじめ、結果として「先送り」という形で国庫負担制度が維持されたことの意味について報告と提起を受けた。

 質疑応答・討論では、市町村合併、教育委員会制度の見直しをはじめ、義務教育費国庫負担制度の総額裁量制の導入による影響などが出された。佐野さんからは「維持されたと喜んでいる場合ではない。総額裁量制の実施は文部科学省の権益を守るが、地方自治体による合理化への道を開くものである。都道府県に対して定数配置を確保させる取り組みが重要になる」との指摘があり、05年度予算では「12月19日の政府・与党協議会における『学校事務職員分に係る取り扱いについては、義務教育費国庫負担金全額の一般財源化について所要の検討を行う中で結論を得る』という了解内容の取り扱いが焦点になる。学校事務職員のみが切り捨てられるのか、または全体の議論の中でうやむやになるのかが鍵になる」との情勢認識が示された。

 集会には全学労連の仲間でもある兵庫県学校事務労働組合や愛学労以外の学校事務職員の参加もあり、半日をかけて学習を深めるという充実した集会となった。05年度予算においては、これまで以上に厳しい情勢が予想される。愛学労は全学労連とともに、学校事務労働者の先頭に立って、職と生活を守るために闘うことを確認した。

 

 この集会の記録をパンフレットにまとめました。省庁と直接対応してきた佐野さんの生々しい話や集会で使用した資料の全てを収録しています。44頁とかなりのボリュームになりますが、読んでみようという方、直接、愛学労に請求してくださいこちらからダウンロード(PDF)してください。

 

共同実施と電子府庁を考えるつどいパート4

 11月29日(土)、エル大阪で「共同実施と電子府庁を考えるつどいパート4」が開催された。

 実行委員の朝倉さんが国庫情勢に触れた挨拶をし、守口の共同実施の様子について大脇さんから次のような報告があった。

 研究発表後も、共同実施の継続・組織化を目指している。新任の配置を強く求め、1名の新採用者と6名の臨時主事で新任研修を行っている。共同実施の中心人物の主幹は、教頭試験を受けたようだ。八雲中は、加配や兼務発令がないのでトーンダウンしている。来年度は、「きめこま」を申請する模様だ。事務職員の専門職化を目指し、大学院へ30代を行かせる構想を持っている等々。

 一本日のレポートは、吹田の「共同実施」を武井さんが報告した。

 吹田では、今年の4月から千里第一小学校に1名が加配され、片山小学校と片山中学校の3校で「学校事務の共同化や連携等によって学校事務の効率化」を目指している。

 千里第一小学校(24学級865名)、片山小学校(28学級1008名)、片山中学校(22学級827名)は、3校とも規模が大きく、幼・小・中連携で市の研究指定校になっている。

 片山中学校では、指定校を受ける提案を職員会議でされたのは5月になってからで何のこと?という感じでしかない。

 吹田市教委や3校に申入書・質問書を提出し、実態について明らかにするよう求めているが、研究の内容は明らかにされていない。今後も目を離さず、共同実施反対を進めるとまとめられた。

 次に「電子府庁(e府庁)構想の問題」〜電子政府・電子自治体、丸投げ委託〜と題してユニオン全労協の能勢さんに話していただいた。

 事務処理のコンピュータ化の歴史、電子自治体の現状、総務サービスセンターの問題点から、電子政府、電子自治体は、我々の人減らし合理化だけでなく、情報を集中させ、監視社会を構築するねらいがある。私達のまわりには、監視カメラ、Nシステム、イコカカード等、個人の居場所や動向までも監視できるようになっている。これらの動きと、住民として、労働者としてどう対応するか、方向が示された。

 その後、意見交換では、「共同実施を事務職員の定数合理化の視点だけでなく、教員を含む学校再編だと捉えないと広がりを持たない」との意見を皮切りに「松原市では、メンテナンス職員が配置されている。組合がなく、文句を言わずよく働くと言われる。学校事務は、誰でも出来る仕事で自治体のスリム化の波をもろに受ける。パート労働者を組織化すべきだ。総務省の動きは、共同実施や7次加配を飛ばしてしまうのではないか。」 や「共同実施は事務部門を確立することで、教員の『雑務』を肩代わりし、教員に専門の仕事をしてもらうと言っている。教員はこれをどう受け止めているのだろうか?」

 「民間での発生源入力でトラブルはないのか?」といった質問や神奈川や愛知の実態も報告された。

 最後に大脇さんが、次のようにまとめられた。「意見が多く出され、広がりのある集会だつた。問題提起もいただいた。吹田の共同実施をさせない取り組みや今後の方向が示された。電子府庁がよく分かるように教えていただき、総務サービスセンターの背景が、監視する、戦争できる国づくりであることがわかった。事務職員の合理化としか見ていなかつたが、全体を見る立場に気づかせてもらった。私達にネットワークつくりの問題提起もいただいた。論議は一見バラバラだったが、お互いの思いをつなげていく契機になつた。神奈川・愛知・兵庫と遠方からも参加していただき、交流できてよかった。」集会を終えてから、近くで懇親会を開いて交流を深めた。私達を取り巻く状況は年々厳しくなっているが、こうした集会の積み重ねが大切であることを再認識させられた。


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