2008年6月27日

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全学労連ニュース今号の内容

 動き出すか?教職員の人事権と給与負担の移譲問題

 橋下知事マスコミ人気を背景に暴挙 

 コンピュータ合理化の行き着く先は・・・

 教員の下働きなんて御免だ …6/4「朝日」記事を読む

 

動き出すか?

教職員の人事権と給与負担の移譲問題

 今年5月28日に地方分権改革推進委員会の第1次勧告が出された。その中で

県費負担教職員の人事権の移譲と給与負担については、都道府県から中核市に人事権を移譲するとともに、すでに人事権が移譲されている政令指定都市と中核市において人事権者と給与負担者が一致する方向で検討し、平成20年度中に結論を得る。

 あわせて、現在都道府県の協議・同意が必要とされている学級編制や都道府県が定めている教職員定数についても決定方法を見直す方向で検討し、平成20年度中に結論を得る。

と述べられている。今年度中に結論を得るとは随分と急なことだが、実は小泉内閣発足間もない2001年10月には既に「地方分権改革」の課題のひとつとして、教職員給与負担の政令市への移譲による任命(人事)権との一致が議論されている。その後「地方分権改革」は三位一体改革の中で、財政問題、それも補助負担金の削減に焦点化され、さらにその中で最大の義務教育費国庫負担金の削減問題が前面に出ることによって、後景に退いていた感がある。

 三位一体改革が大詰めを迎える2005年10月の中教審答申では、義務教育費国庫負担制度の必要性について述べると同時に、「教職員の人事権については、市区町村に移譲する方向で見直すことが適当…」と人事権委譲に前向きな姿勢が示されている。この時の文科省は、義務教育費国庫負担制度死守が最優先であって、矛先を避けるために人事権委譲くらいなら差し出すつもりでいた。中教審答申はそれを反映したに過ぎない。

 周知のように、三位一体改革で義務教育費国庫負担金は負担率1/3に引き下げで結着したが、公立小中学校における人事権と給与負担の不一致という問題は先送りのままにされた。文科省も国庫負担制度自体は維持され決着した以上、もともと中央集権志向の省であるからこの問題をそれほど推進するつもりは無かったのだろう。2007年3月と今年4月の中教審答申ではともに、意見の隔たりが大きいことを理由に「引き続き検討」としている。

 地方分権改革推進委員会は、今年4月25日に文科省の初中教育局長他を呼んで公開討議を開催し、このような姿勢の後退と検討の停滞を厳しく追及している。今年度中の結論を第1次勧告に盛り込んだのは、文科省の姿勢に対する苛立ちの表現に他ならない。

 はたして尻を叩かれた文科省は、移譲に賛成している指定都市・中核市と反対している都道府県・町村の間の意見対立をどう調整するのか。これにより権限を「与えられる」(まさにこの表現がピッタリで、最初から自ら主張して実現する訳ではない)側が賛成するのは当然として、反対する側の一角を占める都道府県はいろいろ理屈をつけているが、結局既得権が失われる事への反発以上のものとは見られづらい。本当に深刻なのは小規模な市町村である。医療や福祉での人材不足はこれまでも指摘されてきたが、教育においても人材難が現実のものとなる。第1次勧告が「広域での人事調整の仕組みにも留意した上で」と述べたところで、「留意」の中身は何も語られず、権限委譲の結論だけが今年度中に求められるのでは安心できる訳が無い。かくして教育部門でも「構造改革」による地方の切捨てが進む。

 身も蓋も無く言ってしまえば、我々にとって「地方分権」といっても所詮雇用者側の権力配分の変更に過ぎないのだが、問題は我々の労働条件にも直結するだけに、高見の見物を決め込む訳にはいかない。移譲のされ方によっては人事面・給与面での地域間格差拡大に大きな影響を与える。給与の県費負担制度が有ればこそ単独でいられた組合もバラバラに分断される可能性もある。ことによると国庫負担制度の廃止論が再燃するきっかけとなるかもしれない。いずれにせよ性急な制度改変を一方的にやらせてはならない。ここが組合の出番であり、頑張り所だ。

 

橋下知事マスコミ人気を背景に暴挙

 大阪府橋下知事は知事就任直後から、「大阪府は、民間企業で言えば破産状態。」と宣言、「歳入に基づく歳出予算を組む、新たな借金に成る起債は発行しない。」とし、議会に対し取り敢えず7月までの暫定予算を上程し、8月以降の本予算は7月議会に上程するとした。

 その本予算案を組むに当たり1100億円の収支改善を行うとし、その内訳は、人件費345億円削減、一般事業費320億円削減、府有財産の売却等で250億円、退職手当債185億円とした。

 人件費345億円削減の中身は、一時金4〜6%カットの継続(2005年度から実施)の他に、月例給与4〜12%カット、退職手当5%カット他、通勤手当、住居手当、旅費の改悪を上げている。退職手当5%カットは、全国的に例が無く、また、告知期間を設けず本年度末から実施すると言う。

 これには、大阪府の経済に属する全ての職員団体、労働組合が猛反発。7月議会上程までのリミットである20日にかけて様々な折衝、交渉が重ねられ、最終的には、20日深夜から翌日10時まで、最大組織の府労組連、府労連が、相前後して知事を交えた交渉を行ったが、知事側は譲歩せず決裂した。労使協調路線を取る府労連は、結成以来初めての交渉決裂となった。

 橋下案には、幾つかの問題がある。先ず、「大阪府は破産状態」と言うが、国が定めた破産状態と言える「財政再生団体」(実質公債比率35%以上)には程遠く、その前段階の「早期健全化団体」(同25%以上)にも至っていない。大阪府より実質公債比率の高い県は幾らでもある。次に、「歳入に基づく歳出予算、起債を発行しない。」は、地方公共団体の「世代間の公平負担の原則」に反する。つまり「橋下時代」に働く府職員(警察教員も)と納税者、受益者だけが負の遺産を負うことになる。そして、何よりも彼の「大阪維新プログラム」には、財政再建の目途、スケジュールが欠落しているのである。この苦労を何時まで続ければ財政が再建されると言う展望が、全く示されていないのだ。

 橋下氏は、タレント時代の知名度だけで大量得票し知事となった。大阪府民は、横山ノック知事で懲りたと思っていたが、そうではなかった。実は、府の幹部職員も、議会も、大阪の財界も、彼を信用していない。何を言い出すか分からない存在であり、何時知事の職を投げ出すか分からないからだ。与党の自民公明も仕方なしに担いだ御輿だ。しかし、今の彼には、マスコミを背景とした極めて表面的で内実の無い「人気」がある。かの小泉のように。

 6月20日をもって府の経済に属する全ての職員団体、労働組合は、知事、当局と交渉決裂した。しかし、阪学労と教育合同労組は、20日の交渉で、「例え議会にこの合理化案が上程されたとしても、その違法性と問題点を指摘しつつ闘いを継続する。」と宣言した。展望の無い、府民、府職員に苦渋のみを強いる橋下知事の「大阪維新プログラム」を我々は許さない。

(阪学労執行委員長 銅則夫)

 

コンピュータ合理化の行き着く先は・・・

 総務省による地方公務員給与実態調査(*1)が行われた。ある教育事務所は管内の市町にチェックリストをインターネットメールで配信した。さらにそのうちのある市教委は、市内全校のリストを全ての学校に配信してしまった。リストは個人情報のかたまりだ。こんなことがあっていいはずがない。

 愛学労はただちに当該教育事務所と県教委を厳しく追及した。

 県教委が明らかにした事実経過は…、

  1.  県教委から教育事務所へは調査リストデータをCD-ROMで配り、各学校へは紙で配るよう指示をした。
  2.  しかしそのうちのある教育事務所は各市町教委に調査リストをインターネットメールで配信し、各学校へは紙で配るよう指示をした。
  3.  事務所からメールを受けた市町は一部の市を除き、リストを紙に打ち出して配らず、そのまま学校へメールを転送してしまった。

 当該教育事務所は「至急、そのメールを削除させ、改めて紙で配布させる」としたが、その後、この指示は「当該校以外の分を削除」に変質してしまっているたり、メールの送受信記録削除の指示が関係機関の全て(当該教育事務所と市町教委、各学校)に徹底されていないことが明らかになった。


 今回の問題は、個人情報保護に対する考え方が上から下まで、事務合理化を理由に、徹頭徹尾いい加減になっていることを明らかにしている。

 そもそもチェックのためのリストだからCD-ROMとはいえデータで渡さなければならない必要は全くない。二次利用がされるかもしれないという恐れを考慮すればそれはなおさらだ。

 さらに、それをインターネットという開かれた環境のメールで市町村に送ることが問題だ。インターネットにつながったPCでそのようなデータを取り扱うということは、全世界に向けて漏洩していってもかまわないということに等しい行為だ。これは「各学校へは紙で送れ、と指示している」では済まされない問題である。

 また、よその学校のデータも含めて洗いざらいを流してしまうという感覚。事、ここに極まった感がある。


 この間、余りにも安易にメールによる文書のやり取りをしていることから、愛学労は県(教育事務所)が市町村(市町村立学校)に文書を施行する際、メールを使うことは県の文書取り扱い規定に反すると、問題視してきた。文書の取り扱いがいい加減なだけでなく、仕事の質までもがいい加減になってしまっている。コンピュータ合理化の行き着く先を垣間見た今回の問題だ。

(愛学労 船橋享)

(*1)他県では県教委止まりで学校現場にまで調査が下りてくることはないようだが、愛知県では「氏名、職員番号、年齢、最終学歴、採用年月日、経験月数、適用給料表、級、号給、給与月額、調整額、扶養手当、地域手当、通勤手当、管理職手当、格付、年間給与額」等、個人情報満載の調査票が配られ、それを点検するという業務が行われた。多くの教育事務所ではその調査票は紙で配布されたが、一部教育事務所はインターネットメールで配信されてしまった。

 

教員の下働きなんて御免だ

…6/4「朝日」記事を読む

 6月4日の「朝日」新聞朝刊を開いて驚いた人が多かったのではないだろうか。3面社説の脇に6段抜き、「学校事務職員広がる仕事」の大見出しに、小見出しは、「先生の負担軽減」「他校と電子文書共有化・名簿作りや給食費徴収も」「動き出した文科省」・・・。参ったな、と私は思った。共同実施推進派の方々の「してやったり」の得意顔が目に浮かぶ。しかし、少なからぬ事務職員は困惑したのではないか。少なくとも私はそうだった。これをきっかけに様々な仕事が押し付けられてくるだろうイヤーな予感におそわれて。

関心はあくまで「先生」

 記事の内容自体は学校事務職員にとって目新しいものはない。「共同実施」の具体例として真っ先に取り上げられている宮崎県小林市立小林小学校については、だいぶ前に通信社の配信で地方紙に取り上げられたことがある。共同実施のショーケース的役割を担わされて(担って)いるのだろう。他の2地区についても「学校事務」誌等で紹介されていたと思う。問題は「朝日」のような全国紙が大々的に取り上げたことだ。恐らくどこからか売り込みめいた動きがあったのだろう。丹念に現場取材をした形跡はない。要するに「先生の負担軽減」にニュースヴァリューを認めて飛びついたということだろう。

 「縁の下の力持ち」と記事でも紹介されている学校事務職員が表舞台に引っ張り出される稀有な機会の目玉が、教員の「雑務」排除の受け皿を買って出ている事務職員というのがなんとも切ない。紹介されている具体例を読んでいると寒々した思いがする。徴収金をやった、児童・生徒名簿を作った、学校めぐりの町民バスツアーを企画した・・・。別にこれらのことが悪いと言っているのではない。やっても構わないと思う。様々な経過があるのだろう、徴収金関連事務を以前からやっている地域もあると聞く。ただ、全国千差万別の状況に置かれている学校事務職員のパイオニア面して喋々するのは止めてもらいたい。そうすることで学校事務職員を「活用」し、教員の下働きをさせようとする文科省他の動きのお先棒担ぎをする傍迷惑は自制してもらいたいと思うのだ。どこに学校事務職員としての誇りがあるのか?

多忙化は事務職員にも

 任用一本化されている東京では、他局から再任用で学校に単数配置された人が仕事の大変さにたちまち退職してしまったという。横浜では財務システム導入で同じ仕事にこれまでより以上の労力を要することになった。コンピュータ化が末端の労働者には却って負担増になることを身に沁みて感じている。少なからぬ事務職員がオーバーワークになっている。新採用者で早くも療休に入った人がいると聞く。全事研会長、日教組事務職員部長を輩出した横浜の共同実施がパッとしない(仄聞の限りでは殆ど実態がない)理由の一つは、横浜の事務職員の忙しさにあるのではないかとすら思う。しかも、人事評価が賃金につなげられ(神奈川では今年度から人事評価制度による勤勉手当への成績率導入、査定昇給制度の導入が強行される)、評価を脅しに使って仕事を押し付けようとする管理職も現に出てきている。今回の記事はこうした流れに拍車をかけることになるだろう。

 全事研副会長がインタビューで語っている、「環境が変化しているのに事務職員だけがそのままでいいのでしょうか。もっと質の高い仕事を・・・」と。教員の多忙化を含めどのような「環境変化」が何によってもたらされたのかを問わず、文科省に擦り寄る人々の言う「質の高い仕事」が徴収金や名簿作成なのは殆ど滑稽と言うべきだろう。

(学校事務職員労働組合神奈川 池上 仁)


6月4日朝日新聞切抜き(PDF 288kb)
 
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