2008年7月20日

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全学労連ニュース今号の内容

 教育振興基本計画を巡る状況の意味するもの ―私たちはどのような教育に向けた労働を強制されようとしているのか―

 教員の勤務負担軽減に関するさまざま・・・

 

教育振興基本計画を巡る状況の意味するもの

―私たちはどのような教育に向けた労働を強制されようとしているのか―

 「改正」教育基本法に位置付けられた初の教育振興基本計画(以下「計画」)が閣議決定された。(7/1)「計画」に「数値目標」を盛り込もうとした文科省と、「財政再建」の観点から反論を加える財務省の「対立」は、「数値目標」を入れることのできなかった文科省が「敗北」したのだという。マスコミを動員して意図的に演出されたこの「対立」の構図は、2008年度予算編成の過程においても見られたものだ。教基法「改正」(’06/12)以後の状況の推移を振り返る中から、「改正」教基法の実働化を押し返していく私たちの運動の課題と方向性を探っていきたいと思う。

(1)現場労働者に矛盾を押しつける「計画」

 教基法「改正」を受けた教育関連三法が’07年6月に成立した。三法成立を根拠に、「社会総がかりの教育再生」の掛け声の下、文科省によって打ち出された大幅な予算の増額要求は、しかし、定数に関しては主幹教諭1000人の配置が認められたに過ぎない。行革推進法の制約の下、財務省の厳しい査定が行われたのだ。今回の「計画」を巡っても似たような状況が繰り返されている。「高い規範意識」と「世界トップクラスの学力推進」をいかに子どもたちに身に付けさせるかという土俵の上で、「予算の投入量」(文科省)か「成果目標」(財務省)かの争いが演じられた。結果は政策の総花的羅列のみ。教職員定数についてはその「あり方を検討」(!)と表現されるに終わった。「計画」は、私たちが要求する定数の抜本的改善を無視し、管理と競争のみを強いていく内容でしかない。現場の労働者の負担は増大していくばかりと言うことだ。

(2)「教育漬け」と労働環境を問う

 派遣労働者の不安・矛盾を背負わされつつ追い詰められ事件を引き起こしていった若者。「子どもたちが将来の見通しをもち努力すれば道が開かれると肌で感じる社会」(佐々木賢『教育と格差社会』)が崩壊させられつつある中で、ただひたすら「教育漬け」にされていくことを果たして子どもたち自身が望んでいるだろうか。そこにあるのは一方的に「与え―与えられる」教育でしかない。投資としての教育のみが語られ、この社会の矛盾を見つめながら、様々な他者との相互関係の中で、問題のありかを見い出し、ともに学んでいくという教育―社会への志向は、失われつつあるのではないか。自らも又、くぐり抜けてきた当の学校を労働の場として生きている私たち自身が、劣化するその労働現場を見直してみることが必要な時ではないか。不当な労働の強制をはね返していくことが必要ではないか。教育への様々な要求に答えていくために事務職員も又、多忙な教員を支援してもっともっと働こう(「共同実施」「学校地域事務室」等々)という全事研の空ろな呼びかけは、社会の現実とは隔絶したところで語られる教育への幻想に支えられたものである。そして、この幻想の下に学校事務労働者を従属させていこうとするものでしかない。このことを私たちははっきりと批判していく必要がある。

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 昨年から開始された全国学力テストは、様々な批判の中で今後も引き続き強行されようとしている(「計画」)。ベネッセコーポレーションがこのテストに深く関与している事実一つをとっても、確実に教育の「民営化」は全国レベルで急速に推し進められていくだろう。資本主義のグローバル化が進行する中で、国家戦略としての新自由主義的な教育―労働政策が展開されていく。教育を一つの軸とした国民総動員態勢が作られつつあるといってもいい。文科省対財務省の「対立」はそのための仕掛けに過ぎない。この状況に抗すべく、教育と労働を貫く全体的な視野の中で自らの課題と方向性を共に見出していきたいと思う。

(全学労連事務局 羽成 純 '08/7/15)

 

教員の勤務負担軽減に関するさまざま・・・

 '08年6月10日の文部科学省、報道発表によると、「教員の勤務負担軽減に関する調査研究事業」なるものが実施されているようだ。これは、教員の勤務負担を軽減し、教員が児童生徒に向き合う時間を拡充するとともに、心身ともに健康な状態を維持し児童生徒の指導に当たることによって、より質の高い教育を提供するため、教員の勤務負担軽減に関する調査研究事業を4分野において実施する、と文科省はいっている。4分野とは(1)学校事務の外部委託(例:学校の庶務事務、経理事務及び施設管理業務等のアウトソーシング)、(2)校務分掌の適正化(例:校内における教員間の業務負担の平準化、会議や調査照会等の縮減などの学校の事務作業の軽減)、(3)保護者等への対応(例:保護者や地域の方からの学校への多種多様な要望等に対する学校及び教育委員会の対応の検証)、(4)教員のメンタルヘルス対策(例:教員の悩みを早期発見し、速やかに対応するための職場環境の整備、ストレスチェックによる実態把握及び対策)となっている。事業の委託先は都道府県教育委員会又は指定都市教育委員会で、今年度は下記の11教育委員会(14事業)に委託されている。

(1)学校事務の外部委託

京都府教育委員会 学校事務の外部委託について、専門的ノウハウを持つ民間企業等へのアウトソーシングの方法等に関する調査研究

(2)校務分掌の適正化

岩手県教育委員会・業務量の平準化及び教員の事務の効率化を図るための小中学校事務の共同実施に関する調査研究
・拠点校方式による県立学校事務の共同化に関する調査研究
群馬県教育委員会教員の業務量調査や教職員の意識調査、それらを踏まえた校務の効率化に関する調査研究
富山県教育委員会学校への文書等の統合や簡素化、廃止に向けた方策等に関する調査研究
京都府教育委員会教職員の業務負担の平準化や学校事務量の軽減などの校務分掌の適正化に関する調査研究
大阪府教育委員会教職員の業務負担軽減に向けた調査や発信文書の精選、校務分掌や会議の在り方等に関する調査研究
広島県教育委員会・学校事務の共同実施による事務処理体制に関する調査研究
・新たな職の設置に向けた学校の効率的な校務運営体制のあり方等に関する調査研究
岡山県教育委員会会議・校務分掌の在り方、出張・研修の在り方、調査照会等の見直しに関する調査研究
徳島県育委員会新たな職を設置した学校のマネジメント機能の強化による校務分掌の見直しなどの教員の勤務負担軽減に関する調査研究

(3)保護者等への対応

埼玉県教育委員会弁護士や医師等で構成する学校問題解決支援チームを中心とした保護者等への対応に関する調査研究
徳島県教育委員会保護者等から学校への多種多様な要望等の実態調査及びその結果を踏まえた対応マニュアルの策定に関する調査研究
高知県教育委員会臨床心理士や医師、教員OB、弁護士等で組織する学校サポートチームを中心とした学校への様々な要望等への対応に関する調査研究

(4)教員のメンタルヘルス

広島県教育委員会新規採用教員の悩みの早期発見や精神性疾患の防止策等の適切な人事管理に関する調査研究
北九州市教育委員会メンタルヘルスと過重労働との相関関係の分析及び効果的なメンタルヘルス対策に関する調査研究
 

 この研究成果を各教育委員会は、報告書の配布や研究発表会を通し、また、文科省は、フォーラム等を通じて全国に普及するという。

 この事業の発端は、’07年11月に「学校現場の負担軽減プロジェクトチーム」を文科省初中局が設置したことによる。この「チーム」設置の目的も、教員が子どもと向き合う時間を拡充するため、文部科学省及び教育委員会等が行っている業務を見直し、学校の負担軽減を図る、となっている。また、検討事項として、現在、学校現場で負担となっている業務の軽減策として以下のような事項について、具体策の検討を行う。・文部科学省等が行う調査統計の縮減・統合。・文部科学省等が行う各種照会事務等の精選。・学校の業務日誌、学校運営関連書類等の様式の簡素化・統一化 等

 このプロジェクトチームは全国市長村教育委員会連合会や全日本中学校長会などから6名の委員と2名の協力者で構成されている。このメンバーには全事研の幹部の名前も挙がっている。11月発足だが翌年3月(’08/3/31)には「学校現場の負担軽減のための取組について」という一定の方向性が示されている。内容は「’08年1月の中教審答申にて教師が子どもたちと向き合う時間の確保などの教育条件の整備や外部人材の活用、地域での支援体制の構築などの提言があった。また、文科省が’06年7月に行った教員勤務実態調査で「事務的な業務」「生徒指導等」「補修・部活等」に要する時間が以前に比べ大幅に増大している。さらに、病休者(精神疾患によるものも含む)が増大していることから、教員のメンタルヘルスの保持という観点からも重要な課題である、としている。

 当面取り組むべき事項として

  1. 調査文書に関する事務負担の軽減で @調査事項の精選 A調査方法の改善 B調査体制の改善 C調査計画の策定 D文書処理の方針 E事務処理の体制
  2. 調査研究(モデル校)事業の在り方の見直しについてで @指定の趣旨の明確化 A運用面での負担軽減 B研究成果の共有と活用
  3. 学校の校務運営体制の改善で @主幹教諭の配置等による負担権限 A事務職員の活用による負担軽減  B校務の情報化による負担軽減 C校務の効率化による負担権限
  4. 今後の検討事項として、○文部科学省において調査文書等の見直しをさらに進めるとともに、各教育委員会等や各団体において、調査文書等の削減等に関し具体的な目標を定めて取組を進めていくことが求められる。 ○学校現場の負担軽減を進めていくため、業務の組織化、情報の共有化の方向でさらに検討を進め、改善を図っていくことが求められる。 ○業務の組織化を進めるため、学校内でのマネジメント改善とともに、例えば、学校に対する意見申し立てに関して、法律上の問題その他の専門的な課題について教育委員会事務局等が学校を支援するなどの仕組みが求められるので、さらに具体的な検討を進める必要がある。その際文部科学省が平成20年度に実施する「教員の勤務時間軽減に関する調査研究事業」における研究も参考として検討を進める。

となっている。

 

 長々とあるが、要は「文科省や教育委員会が調査や研究で現場を忙しくしている。ついては、調査や研究なども工夫し、負担の軽減を図るように」というところだろうか。なんだかなぁ・・・。文科省自身が調査結果が出る前に自ら進んで取り組んでいただきたい。

 また、調査研究の見直しを図るため「『調査研究事業』における研究も参考として検討を進める」とするのはどうだろうか?

 全事研幹部が委員だからだろうか、3.のA事務職員の活用による負担軽減のくだりでは、○事務職員の職務の明確化、大規模校等における事務長の設置、事務の共同実施などにより、事務の合理化・効率化を進めることにより、学校現場の負担軽減を推進する。とある。

 事務長設置で負担軽減?権限を拡大し決裁や認定を事務職員(事務長)がすることにより学校現場の負担軽減になるということか?わたし自身(事務職員)は負担(責任)が増大しているように感じる。また共同実施により学校事務職員が学校現場から離れても、学校現場の負担は増大しないのだろうか?共同実施研究や情報化等の調査研究事業が広く公開されていないので心配は絶えない。共同実施推進派は「事務職員の業務に限ったことではない。学校にある事務の共同実施だ。」という。何も事務職員や学者先生に研究していただかなくても、これが共同実施だ!なんて声高にいわなくても、全国各地で地域事務研や学校現場での工夫などで、現段階でできること、できていることは十分ある。

 まあ、この調査研究事業を「成果を域内に普及するため・・・周知徹底する」ということなのでそれを待ってから考えてもいいのか・・・?。

(全学労連事務局 吉田)

 
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