2017年12月1日

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全学労連ニュース今号の内容

 10.27全学労連 文科省交渉報告  ―法制化の答弁に、主体性がない―

 全学労連要請行動  「働き方改革」による裏切りを撃つ行動に

 横浜新人学校事務職員免職取消裁判  東京高裁控訴棄却の不当判決

10.27全学労連 文科省交渉報告

―法制化の答弁に、主体性がない―

 去る10月27日、全学労連は「学校労働者の労働条件改善に関する秋季要望書」(前号参照)をもとに文部科学省と交渉を行なった。今交渉は、学校教育法改定を受けた「事務をつかさどる」ことにより学校現場や事務職員に与える影響や定数問題、「チーム学校」「学校における働き方改革」による「教員多忙化解消」ははたして有効なのか、文科省に申し入れた。

全学労連質問・要望事項文部科学省回答

1.「事務職員は事務をつかさどる」についての質問

@ 「つかさどる」への改正以前に、各自治体が学校管理規則等で学校事務職員の職務についてどう規定しているのかにつき、文科省はどのように把握していたか。

A 「つかさどる」への改正が、今後各自治体の管理規則や職務規程にどのような影響を及ぼすか、想定しているか。

B 学校事務職員の職務の明示や見直しに向けて、文科省は今後さらに具体的政策を発出する予定であるか。

 法改改正前から、「学校経営参画の通知」を出しているところは「つかさどる」だった。一方、そうでないところは、事務の重要性、学校経営参画のためには、「従事する」から「つかさどる」への改正が必要との要望があった。

 「つかさどる」とすることによって、事務職員から事務長までのキャリア形成の道筋をつけることになるし、そのための研修の充実や制度設計が今後必要になってくる。これについては「教員の働き方改革」の議論を踏まえてやっていく。

2 学校事務職員等の定数改善に関しての要望

@ 学校事務職員の抜本的な定数改善を行うこと。

ア:大規模学校複数配置基準を改善すること。

イ:就学援助加配基準を改善すること。

ウ:東京都に代表される配置基準違反、定数崩しに厳しく対処すること。

 大規模複数配置の件に関し、これまでも小学校27学級、中学校21学級以上で複数配置をしている。ほかに加配措置がある。全体の中で必要な定数確保に引き続き努める。

 要準加配改善に関し、要準児童・生徒が100人以上かつ25%以上で加配措置される。この改善については、(ア)のことも含めて、事務職員の定数全体の中でやっていく。

 各県とも、標準法の趣旨を踏まえて配置がされている。定数と比べて未充足のあるところについては、ヒアリングをする中で具体的な数字を出して法の趣旨を説明している。

A 市町村費事務職員の配置拡大に向け、具体的政策を講ずること。

 市町村費職員は地方財政計画で措置されている。その配置の拡大については、市町村教委へ言ってほしい。文科省としては主幹部長などの関係会議において交付税措置されていること等の話をしている。

3 長時間・過重労働についての要望

@ 給特法を速やかに廃止すること。

 4月に行った「教員勤務実態調査」で、教員の勤務は見過ごすことができないところにきていることがはっきりした。

 骨太方針でも触れられ、また、中教審の教員の働き方改革の議論で、12月報告に向けて検討を進めていただいているところである。

 以下、回答を受けてのやりとりを報告する。

全学労連 以下「全」):「つかさどる」について全国調査はしているのか。各県・市町村で、相当差があることは知っていたのか。今回の改定で、何か変わることを想定していたのか。また、何をしたかったのか。

文部科学省 以下「文」:学校運営参画、校長・教頭のサポートを期待している。各地の規定については(諸団体等を)ヒアリングしただけで全てを調べたわけではない。

全:法改正を受けて市町村はどうすればいいのか。18歳から「つかさどる」事務職員もいる。何をさせたいのか。

文:法の趣旨を読み取っていただいて、市町村で判断していただく・・・。

全:国会答弁で、文科省の上の役人は、事務職員はこれまでサボっていたかのようなことを言っている。現場のこともわかりもせず、失礼だ。

文:「従事する」では『教育委員会と話をしても、なかなか理解されない』といういろいろな苦労があった、と聞いている。それが「つかさどる」 となることによって、より学校運営参画とか、キャリア形成とかに期待ができる。

全:具体の政策は何か。文言だけでなく、定数、基礎定数化をちゃんとやった上でのことなら、まだ話がわかる。基礎定数化の旗を降ろして、言葉を変えて、あとは市町村へ丸投げでは現場では何も響かない。

文:法改正前から「つかさどる」であったところが、いくつかあることは知っている。法改正を踏まえて、次にどうするのか、これは「それで終わり」というものではない。が、まずは法改正をして、ということ。教員と事務職員と同じ目線に立つということ。「つかさどる」とすることによって事務職員は主体的に仕事をしていけることになる、それを法で裏打ちする。これは教育委員会の意識改革に資するものだ。

全:それは一部の人の声に過ぎない。「つかさどる」と共同事務室とはセットのものか。

文:そうだ。

全:それは、こちらの言うことと真逆のことだ。
 「つかさどる」であっても「従事する」であってもやることは同じ。平等性をいかに担保するのか。文科省は事務職員を階層化しようとしており、これはいいことではない。
 若い人、経験の浅い人は小さい学校から仕事をはじめて、その後大きな学校へ移動して、どんな学校でも一人前の仕事ができるようになっていく。「キャリア形成」といえば、こういうことが現場レベルのことだ。こういうところを文科省は見るべきだ。


全:「つかさどる」についてはまた話していきたい。その上で、必要なことは定数。国会でも「事務職員はこれまで、校長の言うことを聞かず楽をしていた」という答弁。基礎定数化はなぜ降ろしたのか。

文:昨年、日本語指導・通級指導以外もメニューとして出したが、折衝の中で削った。こういう動きの中で「基礎定数でなく加配」という判断をした。

全:加配では、現場に定着しないので基礎定数化という立場にこだわる。少人数学級はありえないのか。

文:政策判断。基礎定数の良し悪しというのがある。子どもが減る中で定数(人数)も減るがそれでいいのか、という問題がある。35人学級にしても減るものは減る。そうした時に25人にはならない。

全:それで多忙化は解消できるのか。

文:国庫負担以外の地財措置もある。

全:東京のことについて、東京では大規模複数配置と要準加配がされていないことは知っているのか。

文:そうしたことまで把握はしていないが、総数として少ないことは知っている。

全:前回、「都は困っていない」と言っていた。総額裁量で教員に回っていて、事務職員は8割配置。これは標準法上、違法と言えないか。

文:ただちに違法とは言えない。法はあるがあくまで標準。その他のことも含めてどうか、ということで考える。

全:配置の努力をしていて、たまたま、ということならわかる。努力をしていないというのとは違う。

文:事務職員だけでいうと、充足できていないことは指摘している(80%のことも)。事務職員がいないから、それが直ちにダメ、ということではなく、設置者の判断もある。代替措置があり、それで困っていないということであれば、都の判断になる。

全:市町村は困っている。都は管理していないので、困っていない、他人事だ。現場をちゃんと知っているのか。これは「つかさどる」も同じことだ。

全:働き方改革は「給特法をいじらずに」ということか。

文:中教審の議論を踏まえて、ということ。

全:市町村費事務について、特別教育支援員は10年前に文科省が積極的に打ち出して充実してきている。
 学校基本調査の中に、非常勤のことも含めてやってほしい。現場をもっと知ってほしい。

文:基本調査のデータに、臨任や非常勤のデータがとれない。これがネックになっているという認識はある。
 東京のことも含めて、要望として承っておきたい。


 当事者意識のない回答はいつもの通りだ。毎年同じまとめにもなる・・・。「つかさどる」についても各自治体に判断や運用を任せていると、「教育の機会均等」が壊される、その歯止めとしての文科省という立場でいてもらいたいのであるが、中々理解されないでいる。

 現場といっても「全事研」の要望、主張が文科省内に流れている気がしてならない。回答、答弁が文科省が考えたものとは思えない。一部の事務職員の思いだけで語られている。

 基礎定数化についても、財務省の「基礎定数化のほうが将来大幅な定数減になるであろう」という予想にうかつに手が出せないようだ。

 本当に現場のことを考えて、事務職員のことを考えてするのであれば、もっといろいろな意見、地域、仕事を見たうえで語ってもらいたい。

 今交渉中、市町村費事務職員の地財措置に少しふれたが、学校基本調査で近隣市が市費採用している実態がわかってくれば、各地教委もこの「チーム学校」の波で人を増やす手立てを考えるきっかけになるかもしれない。人が増えたら、それはそれで、面倒なことも多くなるわけですが・・・。

 全学労連はこれからも、現場の様々な声を、労働者の立場から文科省に発信していく。

全学労連要請行動

「働き方改革」による裏切りを撃つ行動に

 全学労連は12月1日の中央行動に合わせて、今年も文科省、総務省、財務省、都道府県教育委員会連合会と文教関係国会議員に向けて、要請行動に取り組みます。

 「チーム学校」とともに狙われてきた学校事務職員への労働強化・業務負担増大と「共同実施」推進の動きは、昨年度末の学校教育法や地方教育行政法の改定へとつながりました。しかし、国会審議とその後の動きを見るに内容的にはお粗末なもの。こんな現実にそぐわない施策は学校現場にはいらないんだという、現場・地方と中央を貫く取り組みが今後重要となります。

 一方で同様の動きが、今度は「学校における働き方改革」の名の下でも進められようとしています。学校現場、学校で働くあらゆる労働者の長時間・過重労働解消を求める気持ちを、裏切り悪用するものに他なりません。こうした問題を指摘し、訴えを広め阻んでいくことが今年の要請の柱となります。

 国政の状況も含め情勢は楽観視できるものではありませんが、全学労連の考えや立場をしっかりと丁寧に伝えていきたいと思います。

要請書に関する趣旨説明

全国学校事務労働組合連絡会議

1.「学校における働き方改革」について、教職員定数の改善や学校が負う業務・役割そのものの縮減といった抜本的かつ具体的な施策を求めます。学校事務職員の負担増を招く、教員から学校事務職員への業務移行に反対します。

 今年6月、文部科学大臣の諮問を受けて中央教育審議会初等中等教育分科会に「学校における働き方改革特別部会」が設置され、検討が重ねられています。8月末に「緊急提言」が出された他、年内をめどに緊急に取り組むべき対策を取りまとめる予定とされています。

 学校現場の常態的な長時間・過重労働の問題は、社会的にも知られるようになってきました。文科相による諮問は教員の勤務実態調査で明らかになった深刻な長時間労働の実態を受けたもので、問題は客観的にも明白です。私たちも、こうした長時間・過重労働は解消されなければならないと考えます。

 しかし、「働き方改革」の名の下に進められている同部会の議論を見る限り、その先行きには懸念と疑問を拭えません。緊急提言で打ち出された内容はいずれも、現場の意識や取り組み不足に原因を求める論調と映るものでした。しかし、道徳教育、小学校英語教育、全国学力学習状況調査、地域連携、教員免許更新制……学校現場がやらなければならないことを増やしているのは、国であり文科省ではないでしょうか。

 そもそも教職員が長時間・過重労働を強いられている根源は、時間外勤務手当等の支払を不要とし教員を「定額働かせ放題」の立場に置く給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)にあります。際限なく増え続ける学校の業務や教育内容、求められる役割は、残業代を払わずにいくらでも働かせられる教員という存在にタダ乗りすることを前提としているとしか思えません。また、行政改革に伴う教育委員会事務局の人員縮小なども影響を及ぼしています。時間外勤務手当等の支払が必要ないからこそ、かえって学校にあらゆることをやらせようという転倒した状況があるのではないでしょうか。まず給特法を廃止すべきです。

 一方で学校事務職員をめぐっては「活用」の名の下、副校長・教頭や教員と事務職員との間での業務分担の見直しがしきりに強調されています。部会でも文科省元官僚である委員の誘導のもと、調査統計対応、学校徴収金徴収・管理、地域連携といった、それぞれに性格が異なる業務を十把一絡げに事務職員に負わせる方向で議論が進められています。これでは、教員の長時間労働が問題なら今度は事務職員に長時間労働を強いれば良い、という考え方でしかありません。

 部会での議論は「教員の多忙解消」が中心となっていますが、だからといって業務負担を単に学校内で、単に教員から事務職員に、付け替えるだけということになって良いはずがありません。学校現場の長時間・過重労働の解消は、教職員の増員と、学校が負う業務・役割そのものの縮減という抜本的な形でなされるべきです。

2.学校長の権限強化や学校職員の階層化を進め職場・職員管理を強化するとともに、学校事務職員にその一端を担わせ、学校職員間の協働を破壊する「チーム学校」に反対します。

 中央教育審議会が2015年12月、「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について」の答申を行い、以降施策化が進められています。「チーム学校」は教員だけでなく多様な専門スタッフを学校に配置し、校長のリーダーシップのもと様々な業務を連携・分担して、チームとして職務を担う体制を整備すると謳うものです。

 しかし「チーム学校」の本質は、「協力」や「協働」といった言葉のイメージとはまったく異なるもので、様々な専門スタッフをまとめるためとして、職員の階層化を強化するとともにこれまで以上に校長が権限を行使する体制をつくることです。新たな階層を設け、管理体制を整備し、上意下達式の職場管理・職員管理強化を敷くための新しい論法に他なりません。そうした施策はむしろ職員間の風通しを悪くし、「協働」の文化を壊すものと考えます。

 中教審答申は学校事務職員について、まず副校長・教頭がよりリーダーシップを発揮していくためとして、「教頭と事務職員の分担の見直し」を謳っています。これは管理強化の一端を事務職員に担わせようというものであり、事務職員と他の職員を分断するものです。さらに事務体制の充実の名の下、「副校長・教頭や教員が行っている管理的業務や事務的業務に関して事務職員が更に役割を担う」ことなどを謳いました。「学校運営チームの一員」といった聞こえの良い言葉の一方で、その中身は単に副校長・教頭や教員の仕事を引き受けさせようというものです。

 答申を受け、今年3月成立・4月施行された学校教育法改正により、事務職員の職務について「従事する」から「つかさどる」へと改められました。しかし法案審議から施行後に至る過程で明らかになったのは、文科省の現場実態や事務職員の職務内容への無知・無理解と具体的な改正理由の欠如でした。文科省は今に至るも「つかさどる」によって事務職員に何をさせたいのか、具体的な答えを持っていません。それでいながら、法改正を奇貨とばかりに解釈を広げ事務職員の業務増を進めようという意思のみはうかがわれます。こうしたやり方は際限ない負担増につながるもので、到底容認できません。

「チーム学校」の前提は、学校現場に課される負担自体は減らすのではなくむしろ「学校に求められる役割が拡大」と謳うようにさらに増やす方向を示しています。「チーム学校」は事務職員にとっても教員など他の学校職員にとっても、新たな・更なる多忙化と労働強化、業務環境の悪化を招くものとなりかねないものです。

 また、各種専門スタッフの配置、特にスクールカウンセラー・ソーシャルワーカーについて教職員標準定数化とも言われていますが、見通しは立っていません。加配など不安定な定数にとどまった場合、そこには臨時職員が充てられるのは明白です。「チーム学校」の名のもとに不安定雇用の学校職員が増えるとなれば、「チーム」の名が泣くというものです。ただでさえ非正規雇用学校職員の増加が問題になっている中、そうした労働者をさらに多く生み出す施策になってはならないと考えます。

3.学校事務職員を学校から引き剥がし、人員削減や廃職につながる「学校事務の共同実施」や「共同学校事務室」設置に反対します。また、「共同実施」を目的とした定数加配の廃止を求めます。

 「学校事務の共同実施」は数校の学校事務職員を定期的に1ヶ所に集め、事務の共同処理を進めるものですが、学校現場を離れることで校内業務への対応の遅れや個人情報の校外持ち出しが生じるなど、事務職員・勤務校双方の業務に支障が出ます。また、「共同実施」は学校事務合理化の施策の面が強く、「共同実施」推進の先には義務教育費国庫負担制度からの事務職員はずしや事務センター化、人員削減、そして廃職まで想定されます。

 こうした想定は現実に、「共同実施」先行県において非正規雇用事務職員の増大が顕著であることや、明確に人員削減を目的に掲げ導入を進めようとしている自治体があることからも明らかです。これらは学校事務職員の労働条件と雇用を破壊するものに他ならず、私たちとしては到底受け入れられるものではありません。

 しかしそうした指摘をよそに、今年3月成立・4月施行の地教行法(地方教育行政の組織及び運営に関する法律)改正により、「共同実施」の法制化として「共同学校事務室」の定めが設けられました。国会審議の中でも前述のような懸念・問題に向き合う姿勢は見られず、なぜ「共同学校事務室」の定めが必要なのか、「共同学校事務室」の定めを置くことによりどうしたいのか、といった点も示されないまま、業務の実態と乖離した「イメージ」が語られるだけでした。

 そもそも「共同実施」は事務職員を学校組織から切り離し、大きくは学校事務機能を学校の外部に置く方向性を持つものです。そうした事務機能の外部化は学校運営に不安定・不均衡をもたらすものと、強く危惧されます。現に先行県では、事務職員不在となった学校における運営上の支障を訴える声が現場から挙げられています。

 地教行法改正にあわせて、教職員加配事由に「共同学校事務室」設置を定める義務標準法(公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律)改正も行われました。それに先立ち従来より、「共同実施」の推進を目的とした事務職員加配も設けられてきました。しかしいずれにしても、加配定数のため毎年受けられる安定したものとはなりえず、定数改善とはまったく無縁です。

 学校運営と学校事務職員制度を守るため、「共同実施」とそのための加配はなくすべきです。

4.義務標準法に定める学校事務職員定数を遵守し、欠員を生じさせないよう求めます。また、児童生徒数や学級数等客観的基準に基づき、複数配置基準の改善と定数増を求めます。あわせて、市区町村費負担学校事務職員の配置拡充に向けた施策を求めます。

 学校事務職員の定数は義務標準法により定められています。この法律は教職員配置の適正化と義務教育水準の維持向上を目的としており、これに基づく職員定数は、全国的な教育の機会均等を保障するためのものとして、自治体の財政的事情や政策にかかわらず当然に遵守されるべきものです。

 しかし現実には、学校事務職員の定数を割り込む「欠員」が、何年にもわたり全国で多数生じています。今年度「欠員」の全国合計は、定数32,228人に対して1,096人(定数の3.4%)で、昨年度の定数32,376人に対する1,021人(3.2%)からさら増えました。また、今年度から教職員の給与負担が移管され学校設置者との一本化がされた政令指定都市が加わることにより、新たな状況も生じています。今まで極端に欠員率の多かった東京都(今年度は17.1%)をさらに上回る広島市(23%)や福岡市(18.1%)のようなところが明らかになりました。これらの事例が制度改変時の一過性のものかどうかは今後の変化を検証しなければなりませんが、これまでも義務標準法に定める複数配置基準について公然と無視し、学級数や就学援助児童生徒数に基づく補正定数を廃止した独自基準を定める自治体があることを考えると、学校設置者と給与負担者が一本化された政令市において、学校事務職員の「欠員」の増加傾向が恒常化していくことが危惧されます。

 義務教育の原則を言うまでもなく、法に定める標準定数が公然・常態的に無視されている現状は是正されるべきあり、欠員解消は当然なされるべき課題と考えます。

 また、現在の学校事務職員複数配置基準は小学校27、中学校21学級以上となっています。しかし学校現場の事務量は増大の一途をたどり、特に複数配置にわずかに達しない学校でひとり働く事務職員の多くが、重い負担を強いられています。加えて、就学援助児童生徒数に基づく複数配置基準は「受給児童生徒数が100人以上かつ25%以上の学校」となっていますが、大規模校では率がネックとなり、業務全体として見れば莫大な量になるにもかかわらず補正定数が受けられない不合理があります。複数配置等定数増は、一定の線引きをせざるを得ないにしてもそれは合理的であるべきです。まして前項で触れた「共同実施」加配のような、客観的基準に基づかない職員配置は定数改善と見ることはできません。「客観的基準に基づく定数増」という、真の定数改善の実現こそが求められています。

 昨今、学校事務職員について様々な形での「充実」や「役割」、「機能強化」、「活用」といった麗句が聞かれます。しかし学校事務職員が現に直面している状況は、法定定数さえ遵守されないなかでの過重労働です。目新しい施策よりも、法定定数の遵守・確保こそが何よりもまずなされるべきであると、現場当事者として強調します。

 あわせて、義務標準法に定める他に市区町村費学校事務職員の存在があります。この職員は地方交付税交付金により措置されているものですが、配置状況は市区町村によって大きく異なっており、全く配置されていない市区町村も珍しくありません。一般財源ではあるものの、交付金措置がある以上配置するのが本旨ではないでしょうか。

5.教職員給与費の政令指定都市への移管に伴い、教育環境や学校職員の労働条件、学校事務職員の任用のあり方について地域間格差が生じないよう求めます。また、給与費・人事権等の市町村へのさらなる「権限委譲」に反対します。

 今年4月より、政令指定都市の義務教育諸学校教職員の給与負担が道府県から政令市に移管されました。都道府県が教職員の給与負担をする「県費負担教職員制度」は、市町村の財政力の強弱により教職員の給与水準や定数に格差が生じることを防ぎ、教育の機会均等を保障するためのものとしてあります。しかし学校設置者と給与負担者が一本化された政令市においては、歯止めなく各市の財政力の影響を受けるようになりました。移管前の試算によればほとんどの政令市が、移管に合わせた税源移譲分だけでは給与費がまかないきれないとされています。

 こうした課題は、賃金をはじめとする労働条件や定数にも強く影響してきます。財政力のない自治体は教職員給与の引き下げや定数減に、いやおうなしに踏み切らざるをえなくなるかもしれません。加えて、学校業務の外注化・非正規雇用への転換など「教育の民営化」も加速させます。とりわけ少数職種である学校事務職員については、全市的合理化の対象に組み込まれ、一般行政職との任用一本化や定数の大幅削減、センター化、そして外注化・非常勤化といった、学校事務職員制度の解体が強く懸念されます。こうしたことはひいて、教育全体に悪影響を及ぼすものと考えます。

 中でも任用一本化については、すでにいくつかの政令市が検討姿勢を見せています。しかし、学校事務として働くことを希望しその職として採用された職員の士気や意欲を損ねるものであり、学校運営や教育行政全体に照らしても実施すべきではないと、特に指摘します。

 移管による問題はすでに噴出しています。特に深刻なのは、欠員補充や産育休代替等についてこれまでフルタイム勤務・月額給の臨時的任用職員として任用されてきたものについて、市の制度に合わせるとして非常勤職員・アルバイト職員に転換された政令市が複数あることです。勤務時間の短縮や給与体系の変更により賃金は大幅に下がり、休暇や手当、社会保険等でも切下げや対象外になるなど不利益は甚大です。そうした市では経験のある臨時的任用職員が離職を余儀なくされた他、引下げられた条件で職員を確保出来るのか危惧されます。

 政令市への移管により義務教育費国庫負担金も直接政令市に渡ることとなりましたが、その裏負担である地方財源分の確保については地方交付税交付金が大事な役割を担うこととなります。財政面で課題を抱えつつ移管が行われたことを踏まえ、こうした面についても予算確保を強く求めます。

 政令市に次いで、中核市やその他市町村への人事権を含めた移譲についても、実施の方向に舵を切っています。しかし、こうした「権限移譲」は「地方分権」の美名とは裏腹に、地域間格差をよりいっそう拡大・全体化していくことになるのではないかと危惧しています。

6.非正規雇用学校職員の労働条件の改善を求めます。

 学校現場には臨時的任用や非常勤といった非正規雇用職員が多数配置されており、その数は年々増え続けています。学校において臨時的任用職員の職務は正規となんら変わらず、事務職員の場合単数配置校への配属、教員の場合学級担任の担当も珍しくありません。非正規雇用職員も学校運営に不可欠な存在です。

 にもかかわらず非正規雇用職員は、賃金・休暇等のあらゆる労働条件について正規職員より著しく低く抑えられています。賃金については、何年何十年と繰り返し任用されていても、昇給に上限が設けられており低い水準にとどめられています。どれだけ繰り返し任用され経験と年齢を重ねていても、給与の上限を正規採用3年目と同じ水準にとどめている自治体もあります。休暇制度でも、正規職員なら有給なのに非正規雇用だと無給であったり、期間等が制限されていたり、そもそも制度が設けられていなかったりするものがいくつも見られます。社会保険の面では2014年に総務省が通知を発し改善傾向も見られますが、まだ充分とは言えません。

 国は「労働条件は各都道府県の裁量」としており、事実、各自治体の責任も大きいところです。しかし非正規雇用職員の増大は国の政策により増大してきた側面もあり、全国的に同様の状況がある以上、国も主体性を持って取り組むべき課題であると考えます。

 地方公務員法の改正により、2020年4月から「会計年度任用職員」の制度が始まります。まだ実像が充分に見えて来ない中で様々な評価や危惧が生じていますが、全国で労働条件の改善につながるものとなるよう、国の積極的な取り組みを求めます。

7.義務教育費国庫負担制度の改善と総額裁量制の廃止を求めます。

 教育の機会均等を図るための義務教育費国庫負担制度ですが、1984年以降、国庫負担から教材費・旅費・退職金等が次々に外されてきました。さらに三位一体改革で実施された給与費国負担率の1/2から1/3への切り下げは、地方への負担転嫁を一段ともたらしました。

 また国庫負担制度をめぐっては2004年度より「総額裁量制」が導入されました。国庫負担金の総額の範囲内で、給与額や教職員配置について各自治体が自主的に決めることができるとする制度で、国はこれにより義務標準法定数を超えて教職員数を増やし、少人数学級・少人数指導などの工夫ができるようになるとしています。しかしこの制度の導入により、職種別定数の弾力的運用が可能になったことから事務職員定数分を教員に回し、事務職員定数が崩されるという事態が進行しています。また、低賃金で多数の教職員を雇うという方向性を助長する制度であり、非正規雇用学校職員の増加の要因にもなっています。

 前述した、義務標準法に基づく学校事務職員定数が全国的に遵守されていない状況は、国庫負担率の切り下げや総額裁量制が大きく影響しています。こうした動きは私たちの労働条件の悪化に明白につながっており、また教育格差の一層の拡大を進めるものです。

 教育の機会均等は国の義務であり、その観点に基づく義務教育費国庫負担制度の改善を求めます。

8.義務教育の完全な無償化を求めます。

 憲法第26条において義務教育無償の原則が謳われています。しかし義務教育にかかる保護者負担の実態は、給食費・教材費・校外活動費等少なくありません。子どもの貧困率に関する最新の調査結果では若干の改善がありましたが、社会制度に抜本的な変化があったわけではなく、義務教育にかかる保護者負担はなお重くのしかかっています。これを救済するための就学援助制度も、2005年度より準要保護について国庫補助の対象から外されるなどした中で、地方自治体の財政難や生活保護基準の引き下げにより充実するどころか逆に後退している現実があります。

 幼児教育・保育の無償化に向けた議論が活発化していますが、もとより憲法に掲げられている義務教育の完全な無償化も長らく求められている課題です。生活保護・就学援助などの既成制度の復元・拡充なども積極的に行い、取り組みを進めるべきです。親の所得水準や自治体の財政事情に関わりなく、すべての子どもに等しく義務教育を保障するよう求めます。

以上



ボーナスカンパにご協力をお願いします。

 全学労連は、義教金の政令市移管や事務の共同実施等、現場に根差した視点から問題点を抉り出し各地で闘い抜いています。また、共通番号(マイナンバー)をはじめ現実の業務とのかかわりから様々な矛盾の追及と当たり前の権利の追求をしてきています。

 臨時的任用や再任用をはじめ、非正規雇用労働者の権利・労働環境にも全力で取り組んでいます。

 皆さんのご支援が、無駄にならぬよう、精一杯がんばってまいります。



横浜新人学校事務職員免職取消裁判

東京高裁控訴棄却の不当判決

学校事務職員労働組合神奈川(がくろう神奈川)

 10月18日、東京高裁はSさんの免職処分を容認した横浜地裁判決の取り消しを求める訴えに対し、控訴棄却の不当判決を下した。

 同じ法廷で別件裁判について誰も出廷しないまま次々に控訴棄却が申し渡され、40人以上の支援者で埋められた傍聴席に重苦しい空気が流れる。いよいよSさん控訴への判決、Sさんと3人の代理人弁護士が席に着くや呆気なく控訴棄却が告げられ、怒りの声を背にそそくさと裁判官は席を立った。

余りに出鱈目な判決文

 判決文はペラペラの5頁、弁護団渾身の90頁近い控訴理由書の主張には何も答えていない。そればかりかわずか16行の「当審における控訴人の主張に対する判断」はSさん側永山証人の貴重な証言を、なんと免職処分の正当化に利用するというアクロバットを演じている。学校事務の仕事の詳細な実態、元学校事務職員の教委職員IがSさんに無理難題や無意味な作業を強制し翻弄していたこと、Sさんへの支援の在り方が本来あるべき継続性をもたなかったこと等を明らかにし、免職処分について「自分も初任の頃は勘違いもしたし仕事が遅れることもありました。原告もあまり変わらないと思います。被告があげる処分理由を当てはめればすべての事務職員が処分該当になります。パワハラや退職強要などがあったことは許しがたいと思います」という証言の中の断片的な一言をつまみ食いしている。裁判官の倒錯した悪意すら感じられる。

 ちなみに永山さんは本人の意向を無視して市教委に異動させられ、このことに一貫して抗議、市教委職員という立場にありながらSさん側証人として証言台に立ってくれた方。この4月学校現場に復帰すると同時にがくろう神奈川に加入し役員として活躍している。

怒りの声渦巻く報告集会

 報告集会では傍聴した弁護団や支援者から不当判決に怒りの声が相次いだ。「判決文受け取ってきたがあまりのひどさに声を失う。今問題になっている学校現場での働き方に大きく関わる裁判だということを痛感している」(笠置弁護士)、「多くの闘いはヒーローが活躍する物語ではない。ごく普通の人間の人権がテーマなのだ」(岡部弁護士)、「この裁判で市教委の中にまずかったと反省し現場への対応に変化が見られる部分もあるが、他方Sさん処分にあたって悪辣な役割を果たしたIが学校現場に戻り事務長に登用されてもいる。市教委の中でも受け止め方に違いがある。裁判を闘ったSさんには有難うと言いたい」(横浜の学校事務職員)、「40年ほど前に大阪大非常勤職員雇い止めの裁判を支援した。10年くらい闘って最高裁で敗れた。行政の裁量権に誤りなしという裁判所の体質は当時と変わっていない」(東京の学校事務職員)等々。

 当該のSさんは「長い裁判の中で勝てるかと思えることもあった。市教委の姿勢にも影響を与えることができ、闘ってよかったと思う。納得できる免職の理由が示されなかったのは悔しい。4年間支えてもらい、有難うございます」と語った。

 最後にがくろう神奈川の小内委員長が挨拶に立ち、「条件附き採用期間延長の時点で組合が関与できていれば、と痛恨の思いだ。退職強要を受け始めてから労働相談を通じて組合につながり、組合の課題として運動を広め今日に至った。Sさんが裁判に訴えたことで、横浜では新採用事務職員は原則複数校配置となった。決して無駄な闘いではなかった」と締めくくった。

上告は断念、裁判闘争終結へ

 10月末弁護団会議が行われ、上告はしないことになった。これは控訴審まで4年間余りにわたる裁判闘争で十分闘い切ったというSさん本人の意向を尊重したもの。これで裁判闘争に終止符が打たれた。何せごく小さな組合、提訴時点では裁判費用も懸念材料だったが全国からカンパが寄せられ(退職金から10万円を送ってくれた方も)、裁判闘争の費用一切を賄うことができた。20回もの裁判は毎回支援で傍聴席は埋められた。横浜市宛免職処分撤回を求める団体署名、地裁宛公正判決を求める署名、高裁宛団体署名にも多くのご協力をいただいた。全学労連はじめ全国の仲間の温かいご支援でここまで闘ってこられました。心から感謝します。



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