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2011年5月13日

文部科学大臣 高木義明 様

全国学校事務労働組合連絡会議    

議長 菅原 孝      


要望書


 2011年3月11日、三陸沖を震源とする未曾有の大震災が東日本を襲いました。地震、津波の被害に加えて、明らかな人災―福島の原発災害が、深刻な状況を生み出し、今もなお予断を許さない現実に私たちは生きています。壊滅的な被害を受けた(受け続けている)人々の生活を一日も早く再建し、安心して共に生きていける社会を実現していくことが急務です。私たち全学労連も、原発震災の困難の只中にいる福島の仲間たちとともに、その一端を担っていこうと思います。

 と同時に、この社会再建の過程は、これまでの私たちの価値観、社会の在り方、教育―労働の現実を根本的に問い直していくことと不可分なものとしてあることも明らかです。4月7日深夜の大きな余震によって被害が出ている中で、女川原発など原子力施設が再び被災しました。即刻一切の原発を停止し、原発震災の拡大を阻止しつつ、社会を再建していくこと、そして原発に依存しない、言い換えれば、科学技術の発展による経済成長という近代社会の在り方そのものを転換していくことを私たちは迫られているのだと思います。

 アメリカに端を発した金融危機・世界同時不況という新自由主義の破綻、資本主義そのものの大きな行き詰まりの中で引き起されたこの国の原発震災の現実は、科学技術を過信し生産力(効率)主義・上意下達主義・進歩主義的発展史観に囚われてきた近代化路線の限界を示しているのではないでしょうか。今こそ、1945年、沖縄の地上戦、広島・長崎への原爆投下によって敗戦に追い込まれ、その廃墟から、戦争を否定し軍隊によらない平和を希求して社会を作り出していこうとした原点に立ち返るべき時です。被曝を前提とした原発労働に従事することを強いられる人々。その犠牲を不問に付して語られてきた「原子力の平和利用」などという言葉が空語であったことを痛切に認識し、人々が共に助けあい連帯していくこと、私たち自身が生き延び、次の世代に共に生きていける世界を手渡していく途を探っていかねばなりません。「世界トップ水準の学力」を呼号して推し進められようとしていた政府―文部科学省の教育政策は粉々に打ち砕かれたといっても過言ではありません。私たちが本当に必要としている学力とは、原発震災を必然化してしまったこの国の戦後の在り方,近代化そのものを超えていく力となる学力であるに違いないのです。国家主義―市場主義、そして何よりも能力主義に貫かれた新教育基本法体制下の教育は根本から転換されていかねばなりません。「全国学力・学習状況調査」を中止し、インクルーシブな教育―社会の実現にむっけた教育改革こそが目指されなければなりません。「日の丸・君が代」の強制、侵略戦争の総括を欠落させた教科書の使用強制などに象徴される差別的―排外的な国家主義に貫かれた教育の在り方は改められなければなりません。今回の大災害において、国を超えて手を差し伸べてくれる人々の存在に思いをはせるとき、私たちは、人々のつながりを分断―阻害していく国家の在り方、公教育の在り方を疑っていくまなざしが必要なのだと思います。戦後教育の出発に際して、文部省(当時)が、学習指導要領を試案として示し(1947)、あくまでも学校の現場の労働者が子どもたちと直接に向き合って形成していく教育の営みの持つ価値を擁護する立場に立った時代があったことを想起すべきです。

 新学習指導要領の本格実施の中で、より一層の長時間―過密労働が強いられ、「教育民営化」による非正規労働者のさらなる導入・拡大が図られていくことに私たちは学校に働く一労働者(労働組合)の立場から強く反対します。人々がいかにしてつながり共に生きていける社会を作り出していくかという根本的な問いを欠落させた「学力」至上主義的な教育は、子どもたちにとっても、そのような教育のために動員されていく私たちにとっても、息苦しい学校の現実を強めていくものでしかありません。

 以上の観点から下記事項の実現を強く求めます。



1.震災以後の状況を踏まえ、以下の点について、緊急に、政府―各自治体、東京電力等関係機関に対して働きかけを行うとともに文部科学省自らも努力を傾注することを求めます。

@ 被災地の人々に対する支援に引き続き全力を挙げること。

 地方自治体の避難者受け入れの動きに連携し、避難生活の長期化を見越した住宅の提供や住宅再建への支援、就学援助などの教育支援を実行するとともに、震災による雇用状況の悪化に対して新たな雇用を確保すること。

 そのために緊急の予算措置を講ずる(軍事予算、原発推進関連予算等を充当する)こと。

A 福島原発の事故について、現状と被害の性格並びに範囲など環境汚染に関する正確な情報を迅速に公表し、対策をたて、地域住民とすべての市民の協力を求めること。とりわけ、乳幼児や子どもや妊婦、病人や障害者や高齢者などの安全の確保を最優先すること。学校給食の安全対策を講じること。

B 福島原発の大事故を招いた根本的な原因が、安全神話を振りまいて原発建設を推進してきた政策の過ちにあったことを認識すること。

 その認識の上に、福島原発の廃炉は無論のこと、浜岡原発、女川原発などすべての原発の運転を即時中止し、原発の全廃と、分散的な自然エネルギーへの移行を目指すこと。これと関連して、アジアへの原発輸出政策を即時中止すること。また、原発推進教育を自己批判し、原発に依存した産業エネルギー政策への批判を踏まえた教育に転換すること。

C 原発事故の現場で、生命と健康にかかわる被曝に晒されながら作業している労働者に対して、政府―東京電力は、謝罪すべきである。その上に立って、東京電力は危険な作業に動員している労働者について現状で可能な最大限に良好な労働条件を保障し、被曝線量管理を厳格に実施し、政府はそれが行われるよう責任をもって監督すること。

2.義教金制度及び学校事務職員制度について

@ 義教金制度において給与費の国庫負担率を1/2に復元すること。また、学校事務職員の制度からの除外(国庫負担外し)を行わないこと。

A 「総額裁量制」を廃止すること。

B 標準法を最低基準として学校事務職員に欠員を生じさせないよう各都道府県教育委員会を指導すること。

C 政令指定都市への教職員給与負担移管及び市区町村への人事権移譲を行わないこと。

D 「学校事務・業務の共同実施」を推進しないこと。また、学校教育法施行規則の一部改正による「事務長」制度化を撤回するとともに、学校事務職員の兼務発令を出させないこと。

E 学校事務の「共同実施」並びに「外部委託」に関する調査研究を行わないこと。

3.定数改善等について

@ 加配方式による定数配置をやめ、学級数や児童生徒数(要保護・準要保護数を含む)を基準とした抜本的な定数改善を行うこと。@)30人以下学級を実現すること。また、インクルーシブ教育を推進していく観点から、一学級あたりの児童数に囚われない教職員の増員を図ること。A)事務職員については複数基準の引き下げによる改善を行うこと。


A 以下のことを各都道府県教育委員会に対して働きかけること。@)定数内職員は全て正規職員とし、臨時職員としないこと。A)市町村費職員(特に現業職員)の引き上げ、民間委託を行わないこと。B)これ以上の臨時職員(非正規職員)を導入しないこと。また、学校給食等の現業や外国人講師などを含む非正規雇用職員の労働条件を改善すること。C)再任用を希望する職員に対する任用において、所属職員団体等を理由とした不当な任用拒否を行わないこと。

4.教育基本法「改正」を見直し、従前の教育基本法に戻すこと。教育関連三法を見直し、教員免許更新制度を早急に廃止するとともに、教職員の階層化政策をやめること。また、「全国学力・学習状況調査」を直ちに中止すること。

5.労働環境の整備について

@ 全国の義務教育諸学校に事務室及び休憩室を設置すること。そのため、小中学校の設置基準の中に事務室及び休憩室をいれること。直ちに設置基準に入れることができないとしても施設整備指針に事務室が盛り込まれている点について周知徹底するとともに、休憩室を同指針の中に明確に位置付けること。

A 教職員の休憩時間を確保すること。そのために各都道府県の教育委員会に対して、労働基準法に基づく休憩を保障する旨の通知を出すこと。また、勤務時間の中に休息時間を設けること。

B 勤務時間内の労働組合の活動に対する不当な規制を行わないこと。

C OA機器導入により派生する健康への悪影響や個人情報保護の問題等について、必要な対応策をとるよう関係機関に働きかけること。

D 労働安全衛生委員会を設置すること。

E 「防災」或いは「安全」の問題については、学校労働者の管理強化、負担の増大に結びつかないよう配慮するとともに、社会的な背景を視野に入れた抜本的な対策を考えていくこと。また、「国民護法」に基づく保護計画の整備をやめること。

6.給料の振込を教職員に強制しないよう、また、給料からの法定外控除等違法・不当な公務外労働を学校事務職員が強制されぬよう、各都道府県教育委員会に働きかけること。

7.独立行政法人教員研修センター主催の「公立学校事務職員研修会」を廃止すること。

8.学校現場に「日の丸・君が代」を強制しないこと。

@ 教育委員会への「日の丸・君が代」実施に向けた「指導」をやめること。とりわけ東京をはじめとする不当かつ強権的な処分行政をやめさせること。

A 神奈川県教育委員会による県の個人情報保護条例、同審査会答申を無視した異常な「君が代」斉唱時の不起立教職員に対する氏名収集をやめさせること。

B 「日の丸・君が代」の強制、性教育をめぐる差別的な対応(ジェンダーフリーバッシング)をやめること。

C 「君が代」を「歌えるように指導する」ことや「天皇への敬愛」を持たせようとすることなど、「愛国心」の押しつけを更に強めようとする新学習指導要領(2008年3月28日告示)を撤回し、国家主義的教育をやめること。

9.インクルーシブ教育の観点から特別支援教育体制を見直し、「障害」児が普通学級で学ぶことを保障すること。その裏付けとなる人的・物的な条件を整備すること。3−@−@)との関連において実効的な対策を講じること。

以上。

 
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